おんなが泣くとき

平成生まれのエッセイストが1年に1回くらい更新するブログ。

会田誠にケンカを売った例の女性は本当に”当たり屋”なのか?

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会田誠「犬(野分)」

会田誠の件である。

概要だけ見るとマア、会田誠というアート界でも政治色が強くて個性もドギツくて物議を醸しがちなところへ狙いを定めたタチのわるい”お気持ち当たり屋”なのかね……と思っていたが、記事を今になってちゃんと読み、訴えた女性側の言い分も理解するに至った。

 

www.bengo4.com

news.livedoor.com

 

訴えの概要は、美術モデルの女性が、会田誠などが講師として参加する公開講座(一般人向け講義)『人はなぜヌードを描くのか 見たいのか』にて、性的な画像を見せられたり話を聞かされ精神的苦痛を受けたとして、開催した学校側に損害賠償300万円ほどを請求したというもの。

 

……っつーかこの女性が美術モデルであること、メディアでワザワザ取り上げる必要のある情報か?
まあそれはいいとして。

 

スクショ等で拡散されている彼女の言い分要約は

・ゴキブリとの性行為の絵や男性器の写真などを見せられた
・それによって過去のトラウマがフラッシュバックした

 

というもので、それに対する大学側の回答、ならびにネットの多数の意見としては


・男性器の画像などを見たくない人がいれば挙手するようにと事前に通告するなど配慮した
・ていうか講座のテーマもド直球に性的だし、講師が会田誠なんだから”そういう”作風ってわかるだろwww イヤなら見んなよwww

 

というもので、一見すると後者に分があるかなーとは思う。わたしも、会田誠展「天才でごめんなさい」にデートで行ったとき、ワクワクしているわたしに反して相手の男はどんどん無口になっていき、一刻も早くこの場から去りたそうでまさに「こんなとこに連れてきてごめんなさい」状態だったことが鮮明に思い出される。ああいう不幸はどこにでも転がっている。


しかしどうやらそういう話ではないようにわたしには思える。
さっき記事を読み飛ばした方、ぜひどうかここで一読していただきたい。

www.bengo4.com


わたしが記事をちゃんと読んで思ったのは、たしかにこれを授業でやられたらキレるかもしれん。ということだ。

 

いくら一般市民向けとはいえ「講座」なのだから、多少は学術的な話を聴けると思って出向くのは普通のことだと思う。この女性は会田誠の作風をご存じなかったらしく、それはたいそう不幸なことと言うほかないが、わたしだったら講師に会田誠の名前があれば、彼自身が渦中にいるアートとポルノの関係とか、そういう話を期待する。その流れでヌードやら男性器を見せられても別に何も文句はない。

しかし蓋を開けてみれば、「ヌードを通して芸術作品の見方を身につける」というテーマの講座に”酒に酔ったような状態で”現れた氏による下ネタと猥談のオンパレードで、すぐに改善を求めたものの、次の講師陣も似たり寄ったりだったと。これは会田誠展に行ったわたしでも傷つくし、イヤな気持ちになる。

 

(それに、これは完全に私的な意見だが、わたしは会田誠のオナニー姿はまだ興味を持って眺めるかもしれないが、誰とも知らん他講師の男性器は絶対に見たくない。藤原竜也キンタマは血眼で探すが、露出狂のキンタマは握りつぶしたいのと同じ原理である。訴えるかも……)。

 

「講座」じゃなくて「トークショー」でやればよかったと思う。タイトルは「会田誠が語る、己の性欲をアートに昇華しろ!!」とかで。それなら、そういうのが好きな人は聴きにいくし、こういう女性は行かなかっただろう。


公開講座は参加者と一緒につくられていくものでもあるから、本当に難しいものだ。なぜなら一般人と、普段から学問に触れている人の思考体系って、驚くほど違うからだ。「隔絶」と言っていいほどの溝があると感じた思い出が、わたしにもある。

在学時代ゼミ教授の公開講座に参加した際、心理学の講座だったのもあるかもしれないが、所謂バラエティ番組レベルでしか心理学を知らない人や、突然「自分の場合は」「我々の時代は」と個人的な経験を持ちだして講義を遮ったりする人が続出し、本当に困惑した。
結局、かなり高レベルな講師陣(学会長を務めているような教授たち)もいちカウンセラーやコメンテーターレベルの回答しかせざるを得なくなってしまい、せっかくの時間が、不毛すぎる……といち学生でありながら軽く絶望感を抱いたものだった。

しかし学問の扉は万人に開かれているのだから、そういう人を拒否するなんてことはありえないし、むしろそういう人たちに一片でもアカデミックのかほりを感じていただくのは社会的な意義があることだと思う。

 

この講座を聴講した一般人がどういう人たちだったか、今では知るべくもないが、写真専門誌であるアサヒカメラも、ヌード特集は発刊部数が爆増するという話があるように、テーマがそれで、そして講師に会田誠の名前があったのであればそれこそ、会田誠の作風を知った上で”そういう”トークを楽しみに聴きに行った人も多かったのではないかと察しがつく。そういう、自分とは異質な聴講者が講師とともに猥談に”花を咲かせる”様子はさぞ、当該女性にとっては苦痛だっただろう


わたし自身はこの事件の今後については関心もないし、どちらが正しいという意見も持っていない。ただ、この女性が、言われているような”行き過ぎたフェミニスト”であったり”お騒がせな活動家”なのか、そしてその訴えは本当に不当極まりないものなのか? ということに関しては再考の余地があると思うので、ここに記す。